小さな発見

エピソード.1「うれしいことってどこにある?」

結婚して十年、口答えなんてしないと思っていた
妻からの、まさかの一撃。
子供の教育について白熱した末の出来事でした。
「うれしいことってどこにある?」
わたし(男性・会社員)・・・当時37歳
妻・・・当時34歳

「どうしていつも自分が正しいことを証明したがるの!」
ある日、妻が真っ赤な顔をして、僕を怒鳴りつけました。

結婚して十年、口答えなんてしないと思っていた妻からの、まさかの一撃。
子供の教育について白熱した末の出来事でした。

予想外の反撃に面食らい、話を切り上げて自分の部屋に引っ込もうとする僕の背中に、
「あなたは私のことを価値の無い人間だと思っているんでしょ!?」
妻の涙交じりの怒声が、追い打ちをかけるように飛んできました。

その後、二人の間に気まずい空気が流れているのはわかっていました。でも、そもそも、僕は間違ったことは言っていない。
妻からは、何の歩み寄りもないまま、必要最低限のみの会話が続き、収まりがつかなくなった僕たちの関係は、いつしかすっかり冷え切っていました。

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僕はロジカルな人間です。
会社でもプライベートでも、議論になったらまず負けることはありません。
どんな些細なことでも、注意深く相手の言い分の矛盾を突き、間違えを認めさせ、言い返せなくなった姿を見ながら、自分が正しかったことを確信してきました。
「ほらね!」と。

僕は幼少時代に両親を亡くしているので、勉強も進学も、必死でこなしてきました。
一生懸命勉強して大学を卒業し、望んだ会社に就職。
仕事もバリバリ頑張って、職場で妻と出会い結婚しました。
自分なりに幸福な家庭を築くべく努力してきたのに。

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妻との冷戦が半年を経過した頃、今度は職場で孤立してしまいました。
任されていたプロジェクトで自分の意見を押し通した末の失敗。
家でも職場でも八方ふさがり……僕の何が悪いんだ?

思い立って、真如苑に行きました。
学生時代、友だちに誘われてしばらく通っていた真如苑。
忙しさを理由に足が遠のいていましたが、接心だけは僕の味方をしてくれるんじゃないか。その一心で、一生懸命祈って、待ちました。

「あなたの考えは、確かに正しいのかもしれません。でも、その正しさをぶつけられた相手の気持ちはどうでしょうか。
あなたが『私は間違っていない』と思えば思うほど、相手も『私は間違っていない』と、壁を高くしてしまいます。壁があったら、いくら自分の気持ちを届けようとしても、相手には届きませんね。
すぐにうまくいかなくても、根気強く相手の声に耳を傾け、相手が喜ぶことを第一に、行動してみてはいかがでしょうか。きっと変わっていけますよ」

まるで僕の状況を見透かしたような言葉にはっとしました。
半年前の、妻の怒声が、怒りの涙が、はっきり脳裏によみがえります。
そういえば、もう何年も、妻の笑顔を見ていない…かも、しれないなあ…。

それからしばらく、家にいるときには妻の行動をしげしげと観察し、先回りしてみました。
妻が何をしたら喜んでくれるのか。
妻は何がうれしいのか。
なんとか今の自分の状況を変えたい。その一心でした。
突然「皿を洗おうか?」と言ったときには、妻はちょっと、気味悪く感じたみたいでした。

でも、そうしているうちに、だんだんと、妻は前のように声をかけてくれるようになってきました。それがうれしく感じるなんて、僕は本当に信じられませんでした。

ある日、たわいもない妻の話に「そうだよなあ」と返した瞬間。
妻が、本当に久しぶりに、うれしそうに僕に笑いかけてくれたのです。ぐっときました。

そのとき、わかりました。
妻が僕の考えをわからないんじゃない、僕が妻のことをわかっていなかったんだ。
妻に、我慢させていたのだ、と。

妻とのやりとりを通して、気づくことがありました。
家庭でも、仕事でも相手の考え方を受け止めてから自分の意見を伝えると、驚くくらい、物事がスムーズにいくこと。そして、お互いに心からの笑顔が増えること。
論破することに喜びを感じていた僕が、会話することを楽しめるようになっていました。

自分は正しいと思っていても、わかっていないことは意外とたくさんあるということが身にしみました。

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まだまだ、弁の立つ僕は妻に時折たしなめられるけれど、こんな会話も大切にしながら、手を携えて、歩いて行こうと思います。

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